「危機管理の原則」について(2020.12.28)。

先日(12/23)朝のテレビ番組(朝日テレビ、羽鳥モーニングショー)で、 田坂広志氏のコメントが印象に残った。 特に医療従事者の側から医療崩壊の危機が叫ばれている一方で、 政府や行政側からの危機回避のメッセージが伝わってこない現状に対して、 行政側が「危機管理の原則」を踏み外し、 「経済優先・安全軽視」に流されいるとの指摘がなされた。 現在の「感染症対策分科会(尾身会長)」のあり方にも問題がある、 との指摘であった。

リスクアナリシスの原則

この番組を見て、以前に雑誌「科学」で読んだ記事を改めて思い出した。 第1波が落ち着いた7月初旬に、 それまでの「感染症対策専門家会議」を改変して 「感染症対策分科会」が発足したことについて、 「現代のリスクアナリシスの原則」から逸脱しているとの指摘である。

尾内、調、 追いやられる科学とリスク評価 、「科学」Vol.90、No.10(2020-10)

今日のリスクアナリシスの主流は、 「科学的知見を検討・提供するリスク評価の機関と、 それを踏まえてリスクへの対応策を立案するリスク管理の機関とを 分離すること」であると述べられている。 その理由は、 リスク評価を科学的に(客観的に正確に)行い、 リスク管理(政策)の都合で評価が歪められるのを 避ける必要があるためとされている。

同記事では、リスクアナリシスの考え方のバイブルとして、 国連食糧農業機関(FAO)/世界保健機関(WHO)合同の報告書

政府が適用する食品安全に関するリスクアナリシスの作業原則 (農水省訳、同省 HP より)

が挙げられている。 そこでは、 「リスク評価の科学的な完全性を保証し、 リスク評価者及びリスク管理者の機能の混同を避け、 利害の衝突を減らすために、実施可能な限りにおいて、 リスク評価とリスク管理は機能的に分離するべきである。 しかしながら、リスクアナリシスは反復的過程と認識されており、 リスク管理者とリスク評価者との間の相互作用は、 リスクアナリシスを実際的に適用するために不可欠である 」 と記されている。 重要なことは、 これまでの食品衛生(そして感染症対策)の経験の結果として、 このような提案がなされており、 それが世界の主流となっているということであろう。

我が国のコロナ対策は大丈夫であろうか ?

4 〜 5月第 1 波の緊急事態宣言は多少の不備はあったであろうが、 医療崩壊には至らず、なんとか抑えることができた。 第 2 波は(第1波が収束し切っていなかったため)予想以上に早く訪れ、 7月以降の GoTo キャンペーンと重なって、 死亡者は少なくなったが第1波の数倍の感染者となった。 感染の季節依存性は指摘されているとおりであるから、 第 2 波は高温多湿の日本の夏に助けられた可能性が否定できない。 第 2 波は収束することなくダラダラと続き、 9 月中旬の GoTo 全面解除ころに始まった第 3 波は、 この年末に至って、首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)を筆頭に、 全国的に感染者が急増し医療の危機が叫ばれている。 現在の感染拡大の状況を見ると、 1 月以降のこの冬を無事に乗り越えることができるのか、 かなり悲観的にならざるを得ない。

この状況に至った原因は季節的要因も含めて多々考えられるが、 対策が打てたはずの原因としては、 (1) GoTo キャンペーンの影響、(2) PCR を含めた医療体制の遅れ、 が大きいのではないかと考えている。

GoToトラベルの実施に対する懸念の声に対して、 分科会は「旅行自体が感染を引き起こすことはない」との見解を取っていて、 旅行先での飲食や三密となる状況を避ける努力を求めている。 また、GoToの影響に対する政府の当初の主張は、 「GoTo が感染拡大の原因であるとのエビデンスは存在しない」とされていたが、 感染拡大に押されて、この主張は小さくなった。 分科会の位置づけが明確ではないが、 組織的にはリスク評価とリスク管理の両方を担っており、 リスク管理(政府の方針)に合致するように、または配慮して、 リスク評価を行っているように見受けられる。 上述の原則から大きく外れているのではないか、と危惧される。

PCR 検査や医療の拡充は、第 1 波の当初より指摘されながら、 未だにネックポイントとなっている。 PCR 検査は、 業を煮やした民間の抗体検査が大量に動き始めたが、 公的な検査との連携がうまく行っていないようである。 日本の関連する制度に問題があるようであるが、 現在の私には、情報も知識も不足している。 今後の課題としたい。


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