年末についに、全国の新規感染者 4520 人、東京で 1337 人となった(NHK 1/1 時点)。 東京都からは、再度「緊急事態宣言の検討を」との声も聞こえる。 ここに至るまでの日本のコロナ対策を見ていると、 感染の拡大に対して振り回されている感が拭えず、 対策の全体像、先の展望が見えない。 ワクチンが2月末頃から始まりそうだがこの冬には間に合わず、 目下の第3波の行方が非常に気がかりである。
2020/03/22 |
コロナウィルス : 「ハンマー」と「ダンス」 (指導者が十分に時間を稼げた場合、これから18か月間がどうなりうるか) |
この記事の後この著者は、 「ダンス」の期間で $R$ を小さく維持するためにいかにすべきかについて、 一連の続編を記述している。
2020/04/23 | 「ダンスを学ぶ」パート1 (世界中の国々から学べること、またはダンスのマスター・クラス) |
2020/05/01 | 「ダンスを学ぶ」パート2 (誰でも覚えられるダンス・ステップの基礎) |
2020/05/04 | 「ダンスを学ぶ」パート3 (検査と接触者追跡の方法) |
2020/05/14 | 「ダンスを学ぶ」パート5 (コロナウイルス:侵入させない、蔓延させない) |
西浦博氏(「8 割おじさん」)が2020年2月にまとめた報告によると、 この分布は平均値 4.8 日、標準偏差 2.3 日のワイブル分布に近いとされている。 その分布を下図に示す。
一方、感染者が発熱などの症状を示すのは、 WHO によると平均して感染後 5 〜 6 日とされ、 発症する数日前から感染を引き起こしていることになり、 また、まったく発症せずに二次感染だけを引き起こしている可能性も 指摘されているとおりです。 これが、このウイルスの対策が難しい大きな理由となっているのです。
上記の再生産数 $R$ の値は一般に、
再生産数 $R$ はある感染者が二次感染を引き起こす平均的人数であり、 これが 1 より大きければ感染は拡大し、小さければ収束します。 その間、$R$ が一定であれば、 結果的に(1日ごとの)感染者数は次のような指数関数で表されます。 $$ (1日の新規感染者数) = (一定値) \times e^{r~t} \quad \quad t: 時間(日) $$ 指数部の係数 $r$ (指数増加率) は 二次感染の総数 $R$ とその時間差分布に応じて変わり、 図 1 の二次感染間隔分布を用いて計算すると、下図のようになります。
指数関数はいわゆる「ねずみ算」です。 そのイメージを掴んで頂くために、2倍(または半分)になる日数を下表に示します。
$~~R~~$ | 0.25 | 0.50 | 0.75 | 0.90 | 0.95 | 1.00 | 1.05 | 1.10 | 1.25 | 1.50 | 2.00 | 2.50 |
$r$ | -0.2511 | -0.1339 | -0.0580 | -0.0217 | -0.0106 | 0.0000 | 0.0102 | 0.0201 | 0.0477 | 0.0887 | 0.1572 | 0.2140 |
半減日数 | 倍増日数 | |||||||||||
2.8 | 5.2 | 12.0 | 32.0 | 65.3 | $\infty$ | 67.8 | 34.5 | 14.5 | 7.8 | 4.4 | 3.2 | |
まず見てほしいのは、右端の $R = 2.5$ のとき(何の対策も行わない場合)、 わずか 3.2 日後には新規感染者が 2 倍になるということです。 慌てて対策をとったとしても、感染者は 1、2 週間後に減ることになりますので、 その間に感染者は 5 〜 20 倍程度になってしまいます。 昨年末頃の日本全体の $R$ は 1.1 前後で上下していました ( up )。 $R = 1.1$ なら 1 か月余りで 2 倍になります。
4 月の第 1 波の際、人と人との接触を 8 割減少して $R = 0.5$ にしたとすれば、 5.2 日ごとに新規感染者が半減したはずでした。 実際には $R = 0.7 $ 程度までしか下がらなかったので少し長引きましたが、 第 1 波は何とか収束しました。 日本のコロナ対策で、$R$ の値はこれ以下になったことはありません。
イギリスで感染力 1.7 倍の変異種ウイルスが拡大し、 「3 度目のロックダウンか?」とのニュースが入って来ました。 感染力が 1.7 倍とすると、 「同じ対策措置のもとでも $R$ が 1.7 倍になる」ので、 第 1 波の緊急事態宣言時の状態($R=0.7 \times 1.7 = 1.19$) を維持しても収束しないことになります。 これが日本で広がると、 これまで経験したことのない事態に陥る可能性が大きい。
「医療と経済の両立」とよく言われます。 上の考察を元に考えれば、 これを可能にするためには$R$ を 1 以下に維持することが必須です。 マスクや手洗いなどの対策を行った上で、 場合によっては社会・経済活動の一部制限をおこなって、 $R$ が 1 以下になるように社会・経済を維持していく。 これが「ダンス」の状態であり、「緩和(mitigation)戦略」です。 ウイルスは目に見えませんから、 $R$ の変化は感染者数の推移から判断することになります。 感染者数は 1,2週間遅れて変化しますの、早めの対策が不可欠です。
社会・経済活動を制限することはできないかも知れないし、 行った措置が期待した効果に繋がらないかも知れない。 $R$ が 1 を超え続けて感染拡大を抑えることができなくなれば、 「医療と経済の両立」を目指すことを諦めて、 医療を重視して社会・経済活動を強く制限しなければならない。 医療が崩壊した感染環境下では、社会・経済活動も不可能となるからであり、 経済はある程度補償をすることができるが、生命は補償できないからである。 これが「ハンマー」であり、「抑制(suppression)戦略」である。 対策措置が効果を現すには、1,2週間の遅れがあるので、 「ハンマー」はできる限り早期に開始して、 できる限り広範に強い措置を取り、 $R$ を小さく(0.5 以下に)する必要がある。 そうしなければ、活動が停止する期間が長くなり、 経済へのダメージが大きくなる。 もちろん、可能な限りの補償と、 「ハンマー」後の「ダンス」での活動再開の配慮は必要であろう。
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