新型コロナウィルス第 3 波も収束へ向かい、 2/8 の栃木県に続いて 近畿圏と中京圏も 2 月末をもって緊急事態宣言解除の動きとなっている。 残る福岡、東京圏も 3 月第 1 週で解除か延長かの選択を迫られている。
ここでは、日本全国(平均)、東京都および大阪府と対象に、 これまでの感染者数(および実効再生産数)の推移から見た、 第 3 波後の予測と対策について、 いくつかのシナリオをもとに検討する。
第 1 波、第 2 波収束後の $R$ の推移 ( 上ページ参照 )を拡大して図 1 (a) 〜 (f) に示す。
(a) 全国(05/15〜08/23) | (b) 全国(09/01〜12/10) |
(c) 東京都(05/15〜08/23) | (d) 東京都(09/01〜12/10) |
(e) 大阪府(05/15〜08/23) | (f) 大阪府(09/01〜12/10) |
これらの $R$ は日々の新規感染者数から推算したものであり、 その方法の制約上大きな波打ちが避けられないが、 コロナ対策上の諸条件変更を考慮していくつかの期間に分けて $R$ の概略値を読み取ると、 下記の表 1 の結果が得られる。
期間 | 全国 | 東京 | 大阪 | |
---|---|---|---|---|
第1波へ | 02/15 〜 04/16 | 1.5 | 1.5 | 1.5 |
緊急事態宣言 | 04/16 〜 05/25 | 0.7 | 0.7 | 0.6 |
同上全国解除 | 05/25 〜 06/19 | 1.1 | 1.25 | 1.5 |
都府県間自粛要請解除 | 06/19 〜 07/22 | 1.4 | 1.25 | 1.5 |
GoToキャンペーン(第 2 波) | 07/22 〜 08/07 | 1.3 | 1.1 | 1.25 |
お盆前自粛呼びかけ | 08/07 〜 09/11 | 0.9 | 0.9 | 0.85 |
GoTo東京解除 | 09/11 〜 11/09 | 1.05 | 1.05 | 0.95 |
分科会「感染拡大」緊急提言 | 11/09 〜 年末 | 1.1 | 1.1 | 1.1 |
第 1 波後、緊急事態宣言解除で全国的に $R$ が再上昇している。 特に大阪では宣言期間中の $R$ が低かった反動か、その上昇が大きくなっている。 その後、都府県間自粛要請が解除されると、 $R$ は東京大阪ではそのままであるが、全国的には上昇しており、 感染が都市部から地方へ拡大したことを暗示している。
夏の第 2 波はお盆を控えた 08/07 に、 分科会等によるお盆帰省等の自粛呼びかけを契機に、 国民の自発的な行動により収束へ向かった。 収束は不十分な状態のまま、東京を含めた GoTo キャンペーンが再開され、 11月、12月の年末に向けて $R$ が上昇し、第 3 波へ繋がった。
第 1 波後と第 2 波後の $R$ を比べると、 季節的にはむしろ厳しいと思われる第 2 波後の方がやや低くなっている。 この背景には、 これまでのコロナ対策の知見として、 感染拡大に飲食を伴う会合が大きく寄与するとの分科会の指摘があり、 この集中的な対策指針が($R$ 換算で 0.1 〜 0.3 程度の) 功を奏している可能性があるものと思われる。 表の最下行以降、年末年始の感染急上昇により第 3 波へ至っている。
以上を概観すると、 第 3 波後の $R$ の値としては、 1.05 〜 1.1 程度の値となることが期待できる。 緊縮後の気の緩みや GoTo 再開等の影響が重なれば これを超えるであろうし、 最悪 1.4 程度になる可能性もあると考えるべきであろう。
第 3 波に対するハンマー措置が終われば、 可能な限りの社会活動を再開してダンスの期間となる。 ダンスの期間ではできる限り再生産数 $R$ を小さくすることが必要であるが、 1 以下にならない限り感染は拡大し、 早晩再度緊急事態宣言等のハンマー措置が必要となる。 第 1 波および第 3 波の経験では、 このハンマーの期間での $R$ として 0.7 程度が何とか可能であろうと考えられる。
現下の第 3 波ハンマー措置前後の 1 日あたり新規感染者を概算すると、 次の表 2 のようになる。
全国 | 東京 | 大阪 | |
---|---|---|---|
人口 | 12710 万 | 1350 万 | 880 万 |
ハンマー・オンの基準 (01/08 の 1 週前頃の概数) | |||
新規感染者数 | 3500 | 880 | 270 |
10 万人比 | 2.75 | 6.52 | 3.10 |
ハンマー・オフの基準 (03/07 の見込み) | |||
新規感染者数 | 910 〜 1300 | 240 〜 350 | 60 〜 90 |
10 万人比 | 0.72 〜 1.02 | 1.78 〜 2.59 | 0.68 〜 1.02 |
以上をもとにして、 第 3 波後の可能なシナリオとして次表 の 5 パターンを考える。
シナリオ | ハンマー措置しきい値 | 再生産数 $R$ | ||
---|---|---|---|---|
オン | オフ | ダンス期間 | ハンマー期間 | |
A | 6.5 人 | 1.0 人 | 1.10 | 0.7 |
B | 6.5 人 | 0.5 人 | 1.10 | 0.7 |
C | 6.5 人 | 1.0 人 | 1.05 | 0.7 |
D | 6.5 人 | 0.5 人 | 1.05 | 0.7 |
O | 6.5 人 | 0.5 人 | 1.20 | 0.7 |
これらのシナリオに沿った SiR モデル ( 参照 ; ただし一部変更を後日掲載予定) によるシミュレーション結果を、 下図 2 (a) 〜 (e) に示す。
(a) シナリオ A | (b) シナリオ B |
(c) シナリオ C | (d) シナリオ D |
(e) シナリオ O | |
いずれの図でも、横軸は第 3 波後のダンス開始日( 3 月 7 日と想定)からの日数であり、 赤曲線は 多少なりとも2次感染能力を持つ(この条件では感染後 13.25 日間の)市中の感染者数を表し、 黒曲線は日々の新規感染者数(×10)を表す。 モデルでは隔離は考慮されていないが、 この黒曲線が実際の日々の新規感染者数に対応していると考えることができる。 図の人数は人口 10 万人あたりの値であり、 各都府県ごとの実際の感染者数は、 この図の数値に 10 万人単位の各都府県人口を掛けることにより求まる。
(補足) 図のダンス期間とハンマー期間の境界で、 新規感染者数に不連続なジャンプや不自然とも見える振動が見られる。 このモデルでは、過去に感染した市中の感染者が 感染年齢(感染後の日数)に応じた感染力で 2 次感染を引き起こすとしており、 その総合倍率の $R$ が不連続に変化するため、新規感染者数に不連続が生じる。 さらに、それまでの $R$ に応じた市中感染者数の感染年齢分布が、 その後の新たな $R$ に応じた感染年齢分布へと時間的に変化するので、 その過渡的状態で新規感染者数にオーバー/アンダーシュートが生じて振動的になると解釈され、 これらの不連続や振動はモデルに沿った自然な結果である。
この図より、以下のことが分かる。
以上の結果を見ると、第 3 波後の方向としてシナリオ D をめざすのが最良であり、 特にダンス期間の実効再生産数 $R$ を 1.05 以下に維持する方策に傾注すべきであろう。
ハンマー・オフのしきい値を低く保つことも次のピークを遅らせるのに有効ではあるが、 しきい値を低くしたことによる時間的効果は上記の $R$ の効果ほど大きくはない。 ただし、ここでは無視しているクラスター対策や医療・検査体制の面からは、 感染者の絶対数の減少はその数値以上に大きな意味を持つと考えられる。
ここでは考慮していない感染力の大きい変異株の蔓延は、極めて重大な問題である。 $R$ が 1.7 倍にでもなれば、かろうじて維持できそうな $R = 1.05$ が $1.8$ となり、 これまで行ってきた方策ではまったく止めることができない。 変異種も含めた検査体制の整備確立と、ワクチンの早期接種が切望される。
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