更新:2017/09/15


脱進機



一般的な時計の構造(レバー脱進機) [1]

  • 香箱中央の巻き芯を回してゼンマイばねを巻く。
  • 2番車は1時間で1回転し、分針を直結する。
  • 時針は2番車から別途減速して取り出す(図では省略)。
  • 4番車は1分間で1回転するように設計されており、秒針を直結させる。
  • ガンギ車にはアンクルの爪のどちらかで止められており、アンクルが左右に振れるたびに 1 歯だけ回転する。
  • テンプはひげゼンマイにより往復回転運動を繰り返し、振り石でアンクルのフォーク部を等周期で左右に振る。
  • アンクルが振られて爪がガンギ車を離れる時、ガンギ車が爪の先端を押してアンクルを押し、
    アンクルのフォークが振り石を押してテンプを少し加速する。
  • ガンギ車、アンクル、テンプの3者で歯車列の回転速度を一定に保ち (ロック・アンロック動作計時動作)、
    同時にテンプに動力を供給(インパルス動作)している。


1 アンクル脱進機

  • 1660年ごろロバート・フックが考案。
  • 長い振り子に適している。
  • インパルス動作が長いため、等時性が乱される。
  • リコイルが生じる(歯車バックラッシュ、磨耗、精度低下)。


2 デッドビート脱進機

  • トマス・トンピオンの考案(1675年)。
  • グラハム脱進機とも呼ばれる。
  • アンクル左面が円筒面の一部(ロッキング面)となり、ロック中のリコイルを防止している。
  • アンクル先端が傾斜した平面となり、インパルス動作を短期間だけ行なう。
  • 現代のほとんどの振り子時計に使われている。

脱進機の機能と精度
  • 計時装置:振り子/テンプ・ばねによる正確な時間
  • ロッキング動作:振り子に合わせてガンギ車を止める
  • インパルス動作:振り子を一定振幅に保つ
  • 理想的には、中立位置で瞬間的に加速する
  • その他(滑り摩擦、軸受、潤滑、自己始動性)


3 デテント脱進機

  • フランスのピエール・ル・ロワが考案(1748年)。
  • その後、イギリスのアーノルドアーンショーが改良。
  • クロノメーターとして1970年代まで使用。
  • 動作:
    1. ガンギ車は、復帰ばねで押さえた作動レバー止め石で静止。
    2. テンプの外し石が作動レバー先端を右へ押し、作動レバーを持ち上げて止め石を外す。
    3. 止め石が外れてガンギ車が回り始め、歯がテンプの振り石を押してテンプを少しだけ回す。
    4. ガンギ車の歯が作動レバーの止め石に当たり、ガンギ車の回転が止められる。
    5. テンプの外し石が戻ってきたとき、作動レバー先端の半作動ばねを抵抗なく素通りする。
  • アンロックとインパルスの動作を同時に短期間行なうため、テンプの自由振動が乱されにくい。
  • またインパルス動作の間の滑りがほとんど生じない


4 デュープレックス脱進機

  • 1700年頃 ロバート・フックが考案。
  • その後、ピエール・ル・ロワ等が改良。
  • ガンギ車はロッキング歯(大径)とインパルス歯(小径)の 2重の歯車を持ち、 テンプのルビーディスクでロッキング歯を制御、 インパルス歯でテンプのパレットを押す。
  • 動作:
    1. ロッキング歯がルビーディスクに接触して静止している。
    2. テンプが反時計回りに振れて、ルビーディスクのノッチに歯が入ってロックが外れる。
    3. ガンギ車が回ると,インパルス歯がテンプのパレットを押す。
    4. 次のロッキング歯がルビーローラーに当たってガンギ車がロックされる。
    5. テンプが時計まわりに揺れ戻すときは、
    6. ロッキング歯がノッチに入ってもロッキングは解かれない。
  • 1790年から1860年頃まで、イギリスの高品質な懐中時計に使用されたが、 ガンギ車の加工が複雑で、生産性に難があったため、広くは用いられなかった。。


5 レバー脱進機

  • 1750年にトマス・マッジが考案。
  • 19世紀以降の大多数の腕時計で使用された。
  • レバー(アンクル)には左右の腕にルビー製の爪(パレット)あり。
  • 動作:
    1. テンプが回転して中立位置へ来た時、 振り石がレバー上端(フォーク)の溝へ入る。
    2. 振り石がレバーを反対側へ動かして出て行く。
    3. レバーとガンギ車の動作はアンクル、デッドビート脱進機に同じ。
  • 後年のピンパレット(またはロシュコフ)脱進機
    • パレットをピン(丸棒)に変え、ガンギ車の歯形を単純化。
    • 精度良くないが、安価。
    • アラームクロック、台所タイマー等。


6 同軸脱進機

  • 近年(1980年特許)、英国のジョージ・ダニエルの考案。
  • レバーは両端と中央とに3個のパレットを持ち、 また、レバーの一端はフォーク部となっている。
  • テンプの振り石は中立位置で レバーのフォーク部へ出入りして、 レバーを交互に揺らす。
  • ガンギ車にも直径の異なる2種類の歯車がある。
  • 小さい径のインパルス歯車はレバー中央のパレットに作用して, レバーフォーク部・振り石を介してテンプを逆(反時計)方向へ押す。
  • 一方、ガンギ車の大きい径のロック歯車は、 レバーの両側のパレットによりロック・アンロックを繰り返し、 パレットの揺動に合わせてガンギ車を回転させる。
  • 大きい径の歯車のロックが解除されたとき、 レバーの中央のパレットが小さい径のインパルス歯車に押されて インパルスを与えられる。
  • インパルス歯車から中央パレットが離れた時、 レバーの他端のパレットが次のロック歯車をロックする。
  • テンプが順(時計)方向へ動いている時、 レバー中央のパレットはインパルス歯車とはかみ合わないが、 一方の(下端の)パレットのロックが外れる時、 他のロック歯車がテンプに付けられたパレットに直接かみ合い、 インパルスを与える。


7 グラスホッパー脱進機

  • ジョン・ハリソンが考案(1722 頃)。
  • 振り子は 2 つのヒンジアーム(パレット)で駆動される。
  • 振り子が動くと,一方のアームの端がガンギ車をつかみ,それを少し後方へ動かす。
  • これが他方のアームをはずし,ガンギ車を通過させる。
  • 振り子が再度戻って来るときは,他方のアームがガンギ車をつかみ,
  • 少し逆方向へ動かして最初のアームをはずす。等々。
  • 他の脱進機より作るのが難しく,あまり使われない。
  • 18世紀にハリソンが作ったグラスホッパー脱進機は,現在も動いている。
  • 軸受部を除き、滑り摩擦部分が全くなく、摩耗が少なく、潤滑が不要。


8 重力脱進機 ('二重三脚重力脱進機')

  • ロンドンのビッグベンなどに用いられている脱進機。
  • Load Grimthorpe が過去の重力脱進機を改良(1859)。
  • 精確な塔型時計の標準。
  • 構造:
    • 赤青一対のアームと、赤青各3枚の歯を持つガンギ車で構成。
    • ガンギ車には、中央近くに 3 個の(リフティング)ピンがあり、
      アームの肘(円弧上の棒)を突いてアームを押し上げる。
    • アーム内側には(ロッキング)パレットがあり、 ガンギ車の歯をロックすると共に、アーム自身も UP 状態でロックされる。
      ロックが解かれたアームは、内側の止め具の位置まで落ちる。
    • 赤と青のアームは異なる面内で運動し、
      ガンギ車の歯は同じ色のアームのパレットにだけ作用する。
      黒のピンは赤青両方のアームに作用する。
  • 動作:
    1. 現在、ガンギ車が青アームのパレットでロックされ、
      青アームが UP 状態であるとする。
    2. 重りが左方向へ振れて青アームの足を押し、
      青パレットのガンギ車が外れる。
    3. ガンギ車が回転して、中心真下のピンで赤アームの肘を押し上げる。 ガンギ車の歯が赤アームパレットに当たってロックされ、 赤アームも UP 状態となる。
    4. 一方、ロックが外れた左の青アームの足が振り子を右へ押して
      インパルスを与える。
    5. 重りが更に右方向へ振れて赤アームの足を押し、
      赤パレットのガンギ車が外れる。
    6. ガンギ車が回転して、中心真上のピンで青アームの肘を押し上げる。 ガンギ車の歯が青アームパレットに当たってロックされ、 青アームが UP 状態となる。
    7. 以下、 2. 以降を繰り返す。
  • 振り子には常に一定のインパルスが作用することになり、
    ガンギ車を回す歯車列の駆動力は、影響を及ぼさない。
  • 歯車列の駆動力は、重錘(と鎖)の高さ、風雨や氷雪の影響あり。


参考
[1] https://plaza.rakuten.co.jp/MechanicalWatch/7003/

|Next|

Page 1 of 1